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演劇におけるサステナブルシアターとは?

舞台・演劇の分野におけるサステナブルシアター(さすてなぶるしあたー、Sustainable Theatre、Theatre Durable)とは、舞台・演劇において持続可能性の概念を取り入れた制作・上演・運営の実践を指します。地球環境への負荷を最小限に抑えつつ、芸術表現と社会的責任を両立することを目的とした考え方であり、近年の地球環境問題や社会変革の潮流を受けて、世界中の劇場やカンパニーが注目するアプローチとなっています。

サステナブルシアターにおける「サステナブル(Sustainable)」とは、単にリサイクルや省エネルギーといった環境対策に限らず、文化的・社会的な持続可能性を含む広義の概念です。具体的には、舞台装置や衣装の再利用、LED照明の導入、脱プラスチックの徹底などの物理的対策に加え、多様性と包摂性を重視したキャスティング、地域資源との連携、公正な労働環境の構築など、多角的な観点から演劇制作を見直すことが含まれます。

また、環境配慮型の劇場建築、移動距離の少ないツアー構成、デジタル化によるペーパーレス化なども、サステナブルな演劇活動の一部とされています。演劇は本来「いま・ここ」に存在するライブ芸術ですが、そこに「未来の社会と環境にどう貢献するか」という視点を加えることが、サステナブルシアターの本質といえるでしょう。

この理念は欧米を中心に2000年代から広がり始め、現在では日本を含む多くの地域でも、文化政策・助成金の指針として採用されるなど、演劇界において重要な基準となりつつあります。



サステナブルシアターの歴史と概念の発展

サステナブルシアターの概念は、2000年代初頭のヨーロッパにおける環境意識の高まりと共に芽生えました。背景には、国連の持続可能な開発目標(SDGs)や地球温暖化対策の国際的議論の活発化があり、文化芸術分野においても環境負荷の低減が求められるようになったのです。

イギリスでは、劇場業界団体「Julie's Bicycle」が2007年に設立され、アーツカウンシル・イングランド(ACE)と連携して、劇場や音楽イベントにおける二酸化炭素排出量の削減を推進しました。また、ドイツの公共劇場では再生可能エネルギーの導入や装置材のリサイクルプログラムが開始され、演劇と環境政策の統合が現実のものとなっていきました。

同時に、「グリーンプロダクション」や「クライメート・コンシャス(気候意識的)な演出」といった概念も登場し、単なるテクニカルな対策にとどまらず、作品そのもののテーマや演出手法、稽古場の在り方にまで「持続可能性」が浸透していきます。

このような潮流を受けて、日本国内でも2020年代に入ってから、各劇場が「エコ演劇」や「ゼロ・ウェイスト演劇」に取り組み始め、SDGsを意識した公演企画や再利用可能な舞台美術の導入などが進行しています。



サステナブルシアターの具体的実践と技術

サステナブルシアターを実現するためには、制作現場における実践的な取り組みが必要です。以下に、代表的な施策を紹介します:

  • 舞台美術・衣装の再利用:過去の公演で使用された舞台素材や衣装を修復・再構成して使用する。解体可能な舞台セットやモジュール構造の採用も一般的です。
  • LED照明と省エネ技術:ハロゲンライトに比べて消費電力が少なく、熱も抑えられるLED照明への転換を図ることで、エネルギー効率が大幅に向上します。
  • 輸送と移動の見直し:ツアー公演や搬入におけるCO2排出量を削減するため、地域密着型公演やオンライン配信の活用が進められています。
  • 印刷物の削減とデジタル化:チラシやパンフレットの代わりにQRコードやウェブパンフを導入し、ペーパーレスを推進します。
  • 環境教育との連携:劇場内でのワークショップやアートプログラムを通じて、観客にも環境への意識を促します。

また、制作現場においては公平な労働環境やジェンダー平等といった社会的なサステナビリティの実現も重要視されています。これは環境問題と同様に、演劇界全体の倫理的基盤を支える要素であり、多様性ある創作環境を育むことにもつながります。

これらの取り組みを統合的に捉え、舞台芸術を持続可能な文化として社会に根付かせることが、サステナブルシアターの核心です。



未来のサステナブルシアターと課題

今後、サステナブルシアターの発展においては、以下のような視点が重要となると考えられます:

  • AI・IoTによるエネルギー管理:照明や音響設備を自動制御することで、劇場運営の省エネ化を図る。
  • デジタル・アーカイブと再演資源の活用:過去の舞台装置や作品データをデジタルで保存・共有し、創作資源として有効利用。
  • インクルーシブ・アートとしての展開:環境問題に限らず、障がいや貧困などの社会課題を芸術で可視化するための枠組みとして、サステナブルな思想を応用。
  • 国際的ネットワークの構築:環境と文化を両立させる取り組みを国際的に共有し、共通の規範・基準づくりを進める。

その一方で、課題も存在します。予算の制約、制作スケジュールの過密、素材調達の困難さ、スタッフ間の意識の差異などが、サステナブルな取り組みの足かせとなることもあります。したがって、制作体制全体の見直しと、柔軟な創造性の発揮が求められます。

これからの演劇制作は、「エンターテインメントとしての価値」だけでなく、「社会にどのような未来を提示できるか」という視点を持つことが、より一層重要になっていくでしょう。



まとめ

サステナブルシアターは、舞台芸術における環境配慮と社会的責任を融合させた新たな演劇の形です。

その実践は、素材や技術の選定に留まらず、労働環境、地域との連携、作品内容そのものにまで波及しつつあり、演劇の価値を未来志向で再定義する試みといえます。

今後、テクノロジーと創造力の融合によって、持続可能で魅力ある舞台芸術のモデルが各地で生まれていくことでしょう。

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